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那覇地方裁判所 平成5年(行ウ)14号 判決 1997年3月11日

沖縄県沖縄市字知花二六〇五番地

原告

島袋文一

右訴訟代理人弁護士

当山尚幸

宮國英男

沖縄県沖縄市字美里一二三五番地

被告

沖縄税務署長 糸洲朝永

右訴訟代理人弁護士

渡嘉敷唯正

右指定代理人

崎山英二

安里国基

呉屋育子

玉栄朋樹

郷間弘司

荒川政明

古謝泰宏

松田昌

主文

一  原告の請求をいずれも棄却する。

二  訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  被告が原告の昭和六一年分の所得税について、昭和六三年六月三〇日付けでした更正処分のうち、所得金額金二二五五万八〇〇〇円、納付すべき税額金四五一万一六〇〇円を超える部分及び加算税賦課決定処分を取り消す。

2  訴訟費用は被告の負担とする。

二  請求の趣旨に対する答弁

主文同旨

第二当事者の主張

一  請求原因

1  原告は、ボート修理販売業を営む者であるが、昭和六一年分の所得税につき、確定申告の法定申告期間内に、被告に対し、別紙一の「確定申告」欄記載のとおり申告した。

2  これに対し、被告は、原告に対し、昭和六三年六月三〇日付けで、別紙一の「更正及び賦課決定」欄記載のとおり、所得税額等の更正及び加算税の賦課決定処分(以下「本件処分」ともいう。)をし、同月三一日に通知した。

3  原告は、本件処分を不服とし、昭和六三年八月三〇日、異議申立てをしたが、被告は、同年一二月一二日付けで、これを棄却する旨の決定をした。

そこで、原告は、平成元年一月一九日、国税不服審判所長に対して審査請求をしたが、同所長は、平成五年六月二四日、これを棄却する旨の裁決をし、右裁決書は、同年七月一日ころ、原告に送達された。

4  ところで、原告は、昭和六一年分の確定申告中、所得申告漏れの部分があったとして、別紙一の「変更申告」欄記載のとおり計算し直し、平成元年一月二五日に納税した。

5  よって、原告の昭和六一年分の課税される所得金額は金二二五五万八〇〇〇円を超えるものではなく、これに基づく納付すべき税額は金四五一万一六〇〇円であって、これを超える被告の本件処分は違法であるからその取消しを求める。

二  請求原因に対する認否

1  請求原因1ないし4の各事実は認め、同5は争う。

三  抗弁

1  本件処分に至る経緯について

(一) 原告は、ボート修理販売業を営む者であるが、昭和六一年分の所得税につき、確定申告の法廷申告期間内に、被告に対し、別紙一の「確定申告」欄記載のとおり申告した。

(二) これに対し、被告は、不動産登記簿謄本等の資料により、原告が昭和六一年にその所有する別紙二の物件目録記載の土地建物(以下「本件物件」という。)を沖縄マツダ販売株式会社(以下「沖縄マツダ」という。)に譲渡している事実を把握していたので、原告及び沖縄マツダに売買内容に関する照会文書を送付したところ、原告からは宇江城安清(以下「宇江城」という。)に金一億四五〇〇万円で譲渡した旨の回答があり、また、沖縄マツダからは宇江城から金二億〇六四〇万円で購入した旨の回答があった。

(三) 一方、宇江城は、昭和六一年分の申告書を昭和六二年三月一六日に提出しているが、同申告書に事業所得金額をマイナス金九一七万四〇〇〇円と記載したのみで、本件物件を原告から購入し沖縄マツダへ譲渡したとの内容の記載を一切しなかった。

(四) そこで、被告は、原告の申告内容と宇江城の申告内容に不突合部分があるとして、担当の職員に命じて調査させたところ、本件取引に関しては二種類の売買契約書〔契約日を昭和六一年一〇月一四日、売主を原告、買主を宇江城、売買代金を金一億四五〇〇万円とする契約書(乙第四号証)(これを以下「甲契約書」という。)と、契約日を昭和六一年一〇月二一日、売主を宇江城、買主を沖縄マツダ、売買代金を金二億〇六四〇万円とする契約書(乙第五号証)(これを以下「乙契約書」という。)〕があるが、双方の契約書の特約条項の記載内容(金額等を除き)も筆跡も同一であり、複写によって作成されたものであることが認められたほか、次項で述べるように、原告は、本件取引に関し、事実を隠蔽又は仮装した形跡があり、これらを総合して判断した結果、本件物件は、原告が沖縄マツダに直接売却したものと認められた。

そこで、被告は、原告に対し、修正申告の慫慂を行ったが、原告はこれを聞き入れなかった。

(五) そこで、被告は、原告に対し、昭和六三年六月三〇日付けで、別紙一の「更正及び賦課決定」欄記載のとおり、更正処分を行い、また、原告が本件取引に関して行った一連の行為は、国税通則六八条一項の「事実を隠蔽又は仮装」に該当するとして、同日付けで重加算税額金四〇五万九〇〇〇円とする賦課決定処分をした。

(六) 原告は、これを不服として、昭和六三年八月三〇日に異議申立書を提出したが、その際、原告は、沖縄マツダから直接受領した中間金二〇〇〇万円の申告漏れがあったとして、別紙一の「変更申告」欄記載のとおり変更主張してきたが、被告は、昭和六三年一二月一二日付けで右異議申立てを棄却する旨の決定をした。

(七) 原告は、これを不服として、平成元年一月一九日に国税不服審判所に審査請求をしたが、国税不服審判所長は、平成五年六月二四日付けで棄却の裁決をした。

2  本件処分の適法性について

(一)(1) 本件物件は、不動産登記簿上、昭和六一年一〇月二一日付け売買を原因として、原告から、直接、沖縄マツダに所有権移転登記がされているが、原告は、本件物件は、原告が宇江城に売却し、沖縄マツダには宇江城が売却したものであると主張し、それを裏付けるものとして、売主を原告、買主を宇江城とする甲契約書(乙第四号証)と、売主を宇江城、買主を沖縄マツダとする乙契約書(乙第五号証)の二通の契約書がある。

したがって、本件物件の沖縄マツダに対する売主は、原告であるのか宇江城であるのかが本件の争点である。

(2) 売買契約の当事者の認定については、売買手続の主体(契約書、代金の領収証、登記申請書等の関係書類の名義人は誰か。)及び買受資金の提供者が重要な判断要素であるが、このほか、代金等の契約における重要な事項の決定者、代金の受領者及びその使途等売買契約に関わる諸般の事情を十分斟酌しなければならず、さらに、取引の一方当事者の資力、信用等を背景として生じる他方当事者の意思も重要な要素となる。

<1> 本件売買契約の関係者の認識について

本件物件の買主である沖縄マツダの担当者である宮城靖(以下「宮城」という。)は、本件物件の売買当時、その売主は原告と認識していたと証言し、また、宮城が宇江城と会ったのは売買契約の当日である昭和六一年一〇月二一日が最初であり、それまでは宇江城の住所や電話番号も知らなかったのに対し、宮城は、売買契約前の同月一六日ころまでに、本件物件の所在地で原告と面接し、原告の売却意思の確認をしている。

以上によれば、沖縄マツダにおいては、本件物件の売主は、その登記簿上の所有名義人であり事前に交渉もした原告であると認識していたことは明らかである。

また、本件物件の売買に関与した新城進(以下「新城」という。)は、宇江城が売主と聞いたことはなく、売主は原告自身である旨証言している。

<2> 沖縄マツダとの売買代金の授受について

ア 第一回目の代金授受について

昭和六一年一〇月二一日に沖縄マツダが支払った額面金五〇〇〇万円の小切手は、原告が預かり保管し、翌二二日に琉球銀行泊支店に行き、これを支店長小切手(小切手番号三七七一八)に書き換えている。

その後、原告と宇江城は、株式会社琉球銀行(以下「琉球銀行」という。)コザ支店の普通預金口座(口座番号一二八一一二)に入金して現金化しているが、高額の金銭を口座振替や支店長小切手を利用することなく現金によって受け払いしているのは、税務当局の追跡調査を困難にするように工作したものである。

イ 第二回目の代金授受について

昭和六一年一一月一〇日に宇江城が沖縄マツダから中間金として金一億円の小切手を受け取り入金に利用した株式会社沖縄銀行(以下「沖縄銀行」という。)十字路支店の同人名義の普通預金口座(口座番号一二五七七〇四)は、同日に入金額一万円で新規に開設され、中間金の受け払い終了後の翌日に解約されている。これによれば、この口座は、原告が意図する取引を仮装するために開設されたものであると推察される。

また、宇江城が取得したとする金二〇〇〇万円のうち金六〇万円については、同日に現金で払い戻しを受けているが、この金額が本件土地の所有権移転登記及び根抵当権抹消登記手続費用に見合うことやこの時点で右各登記手続がされていることなどから、これは、右登記手続費用に充当されたものと推測される。

ウ 第三回目の代金授受について

昭和六二年四月二四日に原告が沖縄マツダから受領した金二〇〇〇万円のうち金一〇〇〇万円については昭和六二年四月二七日に比嘉正昭名義の定期預金口座に入金され、その後数度の更新を経て平成三年五月二二日に原告が比嘉正昭名義で借り入れていた手形債務金一二〇〇万円の返済に充てている。このように、原告は、他人名義の口座を利用するなど巧妙な手口で租税の逋脱を図ろうとしている。

エ 第四回目の代金授受について

原告は昭和六二年五月二一日に原告が沖縄マツダから受領した金三六四〇万円のうち金一一四〇万円は宇江城に手渡したとするが、これを証する証拠はない。

むしろ、「昭和六二年一月か二月ころ、宇江城の事務所に行ってみたが引っ越した後だった。」とする証人比嘉徳清(以下「比嘉」という。)の証言によれば、同日には原告は宇江城と会っていないはずであり、(原告は、この際に宇江城に会ったとしながら、宇江城に対して昭和六一年分の確定申告の有無について確認していないとするが、原告が宇江城を信用していなかったことからすれば、これは不自然である。)、右金三六四〇万円は全て原告が取得したというべきである。

オ このように、原告は、租税回避を目的として種々工作していることから、ある程度、取引の外形、特に金の流れに原告の工作に沿う部分があったとしても、それは、原告が受領したとする金額の外形についてであって、原告が受領していないと主張する部分が即宇江城が受領した金額になるものではない。

原告は、原告が受領していないとする部分については課税庁でその帰属を立証すべきである旨主張する。

しかしながら、本件では、本件物件を沖縄マツダに譲渡するに際して、原告はその契約の締結から履行(現金の受領)までの全てに主体となって関与していること、原告が本件物件の売買によって宇江城が取得したと主張する金額は、媒介手数料としては非常識なほどに高額であること、前記のとおり、沖縄マツダからの本件土地の売買代金の流れに極めて不自然な点が認められることなどからすれば、宇江城が原告から購入し沖縄マツダに売却して転売利益を取得したことを、原告において客観的な資料に基づいて反証しない限り、沖縄マツダからの売買代金は原告に帰属すると推定すべきである。

<3> 原告の意図的行為的な工作の存在について

ア 本件関係者の役割について

本件の関係者としては、原告のほか、宇江城、新城、東江徳蔵(以下「東江」という。)、仲松俊男(以下「仲松」という。)及び宮城らがいるが、各人の役割は以下のとおりである。

宮城は、本件当時沖縄マツダの総務部長であり、同社に出入りしていた仲松や東江に対して土地の仲介を依頼していたところ、仲松は、新城から原告の土地が売りに出ていることを聞き、これを東江に紹介した。新城は、宇江城から原告の本件物件が売りに出ていることを聞き、また仲松から沖縄マツダが土地を探していることを聞いていたことから、宇江城と仲松とを取り次いだ。

このように、新城、仲松及び東江らの媒介によって原告と沖縄マツダとの売買交渉はほぼ成立しており、原告が沖縄マツダに譲渡する金額よりも低い価格で宇江城に売却する理由はないから、宇江城は税務対策上の役割のみを引き受けたというべきである。

このことは、新城らが本件物件の取引がウイモーキー(売主の希望価格を超える価格については、転売する者の利益となる取引形態)であると聞いていないこと、宮城、新城及び東江は売主は原告であると認識していたこと、宮城は本件物件の取引日まで宇江城と面識がなかったこと、宇江城が積極的に沖縄マツダとの売買契約の交渉にあたった形跡はなく、また、自ら何らの出捐もしていないことからも裏付けられる。

イ 宇江城の買受人としての適格性について

ウイモーキーの取引形態が原告主張のとおりであるならば、その取引を依頼する相手方は信頼できる者でなければならない。しかしながら、宇江城は、当時、約五、六〇〇〇万円の借金を抱えており、原告も、第三回目と第四回目の売買代金を持ち逃げされないように、自ら沖縄マツダから受領しているように、原告は宇江城を信用していない。したがって、かかる宇江城に原告がウイモーキーを依頼するのは不自然である。

ウ 金四一四〇万円について

原告は、昭和六一年一〇月一四日に宇江城と本件物件の取引について話し合った際、宇江城は、原告に対し、五、六〇〇〇万円の借金があるから、税務対策ができると言ったとしている。原告が宇江城が本件により取得したと主張する金額は金四一四〇万円であり、これに租税逋脱工作が発覚した金二四〇〇万円を加えると、金六一四〇万円となり、ほぼ前記金額に相当する。これによれば、原告は当初から金六〇〇〇万円程度の租税逋脱工作をしていたとみるべきである。

また、原告は、本件物件を売却した事情についき、レジャー産業等の経営不振や模合崩れ等の負債が金一億二〇〇〇万円から金一億二五〇〇万円程度あり、これを支払うためであったとしている。しかしながら、原告が取得したことを認めている本件物件の代金一億六五〇〇万円から右負債の返済に充てられた金額は、昭和六一年一一月一〇日に根抵当権を抹消するために銀行に返済した金六八七〇万八九七九円、手形債務金六〇〇万円及び金五〇〇万円の合計金七九七〇万八九七〇九円である。そうすると、前記負債は金四〇〇〇万円程度残ることになる。この金額は、宇江城が取得したと原告が主張する金四一四〇万円とほぼ一致する。したがって、右金約四〇〇〇万円は、宇江城が取得したのではなく、原告の借金の返済に充てられたとみるのが相当である。

エ 譲渡価格の不合理性について

原告は、本件物件の宇江城に対する売却価格は金一億六五〇〇万円であり、宇江城が沖縄マツダに金二億〇六四〇万円で売却し、その差額金四一四〇万円は宇江城が取得したとする。

しかしながら、本件物件は、沖縄マツダに売却する約二年前から売りに出ており、沖松や東江など一二ないし一三名の買い手が交渉に来ているのであるから、原告も、おおよその時価は承知していたはずである。それなのに、これを宇江城に時価より金四一四〇万円も低く売却するはずがない。このことは、原告が、宇江城と取り決めをする前の昭和六一年一〇月一四日に沖縄マツダの専務と会って商談を交わしていることからも明らかである。

オ 甲契約書の形式について

甲契約書には印紙の貼付がなく、必要な部分は、乙契約書を複写し、あるいは、都合の悪い部分は、契約用紙を替えるか、その部分に紙を貼り付けて複写し、その後につじつま合わせの記載をした形跡がある。

また、特約条項のとおりに履行されたものはほとんどない。たとえば、原告は、原告と宇江城との間のウイモーキーが成立したのは昭和六一年一〇月一四日であるので、同月二一日に甲契約書の作成日付を同月一四日に遡及させて作成したとし、甲契約書に手付金四〇〇〇万円を受領したとの記載があるが、同日には受領していない。

また、乙契約書の特約条項1には、居宅兼店舗及び工場の移転は原則として六か月以内とする。ただし、移転先の建築物の完成が遅れた場合は二か月さらに猶予する旨の記載があるが、乙契約書上の売主である宇江城は、本件物件の建物を占有していないし、移転先の建物を建築する予定などないから、乙契約書の右特約条項上の売主とは原告をさすことは明らかである。

(4) 以上によれば、甲契約書は真実を隠蔽仮装するために作成された虚偽のものであり、本件物件の売買契約は、原告と沖縄マツダとの間に成立したものであって、その代金二億〇六四〇万円は全て原告に帰属したものとみるのが法的にも正当であり、実際にも符号する。

したがって、これと異なる原告の確定申告は更正されてしかるべきである。

(二)(1) 課税処分取消訴訟における実体上の審判の対象は、当該課税処分によって確定された税額の適否であるから、対象となる課税処分は、それによって確定された税額が租税法規によって客観的に定まる税額を上回る場合に、その上回る限度で違法として取り消されるにすぎない。したがって、仮に当該課税処分における所得の算定要素の認定に誤りがあっても、それにより確定された税額が総額において租税法規によって客観的に定まる税額を上回らなければ、当該課税処分は適法である。

(2) 原告の昭和六一年分の税額については、原告の事業所得と本件物件の取引による譲渡所得とを損益通算して算出される金額をもとに算出される。そして、原告の事業所得の金額については当事者間に争いがない。

(3) そこで、本件物件の取引による譲渡所得の金額を算定する。

譲渡所得の金額は、資産の譲渡による収入金額からその資産の取得費と譲渡のために要した費用を控除し(この控除した残額を「譲渡益」という。)、この譲渡益から租税特別措置法(以下「措置法」という。)に定める特別控除をし、課税の特例等があればこれを適用して算定される。

本件物件の取引は原告と沖縄マツダとの間で行われたものであり、その代金による原告の収入金額は金二億〇六四〇万円である。

取得費については、本件物件は昭和四七年五月一二日に金二一〇〇万円で取得しており、償却費相当額を控除した後の取得価額は金一六八七万七八五円である。借地権は、譲渡価額の評価割合を底地と五〇対五〇の金八三七〇万円として(別表2参照)、これの五パーセントに相当する金四一八万五〇〇〇円を取得費とした。

譲渡のために要した費用につき、国税不服審判所の裁決では、宇江城の子である宇江城孝名義の銀行口座に振り込まれた金四三〇万円を媒介手数料として認めている。しかし、宇江城は、原告の租税回避行為に協力した者であり、右金四三〇万円は脱法行為に加担した行為に対する報酬であるから、これを本件物件の譲渡費用として認めるのは相当ではない。そこで、本件物件の譲渡に要した費用は、法定媒介手数料に基づいて算定するのが相当である。宅地建物取引業法四六条一項、二項及び昭和四五年建設省告示第一五五二号の第一によれば、法定媒介手数料の額は、売買代金額が金四〇〇万円を超えるものについては一〇〇分の三とされているから、本件物件の取引における法定媒介手数料は金六二五万二〇〇〇円となる(なお、これは、原告と宇江城との間に現実に右金額が授受されたことをいうものではない。)。

原告は、本件譲渡資産につき、本件建物を昭和四七年五月一二日に金二一〇〇万円で取得し、本件土地を賃借している。そして、借地であった本件土地を昭和五八年一二月三〇日に金三五〇〇万円で取得している。また、本件譲渡資産は、居住用と事業用に利用されているので、物件別では、建物、借地権及び底地に分類され、利用別では居住用と事業用に分類される。したがって、建物、借地権及び底地の各一部については措置法三五条で規定する居住用財産の譲渡所得の特別控除が、建物と借地権の一部を除いた残余の建物と借地権については措置法三七条で規定する特定の事業用資産の買換えの場合の譲渡所得の課税の特例が、右底地を除いた残余の底地については措置法三二条で規定する短期譲渡所得の課税の特例がそれぞれ適用される。

このように、資産の利用目的により措置法の適用法条が異なるので、本件物件の所得を算出するには、本件物件について利用区画の面積を計算し、その面積が全体の面積に占める利用割合を算出する(別表1)。

前記のとおり、本件物件の譲渡価額は金二億〇六四〇万円であり、うち本件建物の譲渡価額は金三九〇〇万円、本件土地の借地権割合、底地割合は各五〇パーセントであるから、これを本件建物、借地権及び底地に割り振りし、さらにそれを居住用部分と事業用部分に割り振りして算出する(別表2、3)。これと同様に、法定仲介手数料相当額金六二五万二〇〇〇円を譲渡価格及び利用割合に応じて配分する(別表4)。

(4) 右(3)によって算定された原告の譲渡所得金額は、別表5の「被告主張額」欄記載のとおりとなる。

そして、所得から差し引かれる金額(雑損控除、医療控除、社会保険料控除、生命保険料控除などの諸控除の金額)をこれから差し引くと、原告が納付すべき税額は、別表6の「被告主張額」欄記載のとおりとなる(所得税法施行令一九八条三号、三三条三項)。

これから、費用額を差し引くと、原告の所得金額は、別表7の「被告主張額」欄記載のとおりとなる。

(5) この結果と、本件更正処分による金額とを比較すると、本件更正処分による金額は、この範囲内でなされている(別表8)。すなわち、原告が納付すべき税額は、前記算定によれば、金一八二九万四〇〇〇円であり、本件更正処分による税額は金一五一七万五八〇〇円であって、これを金三一一万八二〇〇円も下回っているから、本件更正処分は適法である。

四  抗弁に対する認否

1  抗弁は争う。

2  本件の経緯は、以下のとおりである。

(一) 原告は、昭和五九年当時、約金一億二〇〇〇万円の負債があったため、本件物件を処分することを計画していたところ、昭和六一年一〇月八日に宇江城が原告を訪ねてきて、「土地を売る話を聞いたが本当か。」と持ちかけてきた。原告がこれを肯定したところ、宇江城は、「本土の業者でいい買い手がいる。」と言ったので、原告は、宇江城に対し、金一億七〇〇〇万円以上で売却したいと言った。

(二) 宇江城は、同月一一日及び一四日にも原告を訪ね、本件物件の購入を希望したので、同日、宇江城と原告との間で、<1>原告は宇江城に対し本件物件を代金一億六五〇〇万円で売却する、ただし、契約書上は代金一億四五〇〇万円として金二〇〇〇万円については申告しないこととする、<2>本件についてはいわゆるウイモーキーとする、すなわち、宇江城は本件物件を自分が見つけてきた第三者に売却する、宇江城は、自分が第三者から取得した売買代金から原告に対する売買代金を支払い、その差額については宇江城が取得し、原告は右転売利益については一切関与しない、<3>右売買後六か月後に原告は本件物件を明け渡す、以上の内容の合意をした。

(三) 同月二一日、原告は、宇江城と共に、沖縄マツダの宮城と会い、そこで、宇江城と沖縄マツダは、本件土地につき、代金二億〇六四〇万円、手付金五〇〇〇万円、中間金一億円(支払期日昭和六一年一一月一〇日)、残代金の支払は物件引渡し完了後の約定で売買契約を締結し、宇江城は右宮城から手付金五〇〇〇万円を小切手(小切手番号三六二〇二)で受領した。なお、原告は、このとき初めて、本件物件の買主が沖縄マツダであることを知った。

(四) 同日、原告は、宇江城と共に、本件物件の売買契約書を作成した(乙第四号証)。作成日付については昭和六一年一〇月一四に地に遡らせ、契約書上は、代金一億四五〇〇万円、手付金四〇〇〇万円等とした。契約書の作成日付を遡らせたのは、原告と宇江城で本件物件の売買の合意をしたのが昭和六一年一〇月一四日であったため、それに合致させたためである。また、原告と宇江城は、手付金を金四〇〇〇万円、中間金を金八〇〇〇万円、残代金の支払は物件引渡し完了後とする旨合意した。

(五) 宇江城は、翌二二日、沖縄マツダからの額面五〇〇〇万円の小切手をいったん現金化し、これを琉球銀行コザ支店の同人名義の普通預金口座(口座番号一二八一一二)に入金した後、同日午後零時一四分にこれを全額引き出し、そのうち金四〇〇〇万円を手付金として原告に対して支払った。

原告は、この金四〇〇〇万円を、沖縄銀行十字路支店の普通預金口座に金二二〇〇万円、定期預金口座に金三〇〇万円、義弟の伊波義信名義の普通預金口座に金一四二〇万円各入金し、残金八〇万円を諸費用に支出した。

(六) 原告と宇江城は、昭和六一年一一月一〇日、沖縄銀行十字路支店に行き、宇江城は、沖縄マツダから中間金一億円を小切手で受領し、いったんこれを沖縄銀行十字路支店の同人名義の普通預金口座(口座番号一二五七七〇四)に入金した後、そのうち金八〇〇〇万円について同支店の原告名義の普通預金口座(口座番号二〇四三九)に振り替えることにより原告に対して支払った。

また、この場で、原告は、宇江城及び沖縄マツダに対し、宇江城が沖縄マツダから受け取るべき残金五六四〇万円は原告が代理受領することを要望し、その旨を原告、宇江城及び沖縄マツダの間で合意した。

(七) 原告は、昭和六二年四月二四日、宇江城が同席している場で、沖縄マツダから、金二〇〇〇万円を現金で受け取った。

(八) 原告は、昭和六二年五月二一日、沖縄マツダから金一六四〇万円を現金で受け取り、また、残金二〇〇〇万円を小切手で受け取った。そして、原告は、同日、宇江城に対し、金一一四〇万円を渡した。原告は、翌二二日、小切手を現金化し、合計金二五〇〇万円のうち、金一二〇〇万円を沖縄銀行十字路支店の普通預金口座に、金一二〇〇万円を同支店の信託預金に入金した。

3  以上によれば、本件物件は、原告が宇江城に対し昭和六一年一〇月一四日に代金合計金一億六五〇〇万円で、また、宇江城が沖縄マツダに対し同月二一日に代金合計二億〇六四〇万円でそれぞれ売却したものであって、原告と沖縄マツダとの間には直接の契約関係は存在しないというべきである。

4  なお、被告は、甲契約書は事実を隠蔽仮装するために作成された虚偽のものであって、原告と宇江城間の売買契約は存在しないと主張するが、以下の理由によれば、甲契約書は虚偽のものではなく、本件物件は、原告から宇江城に、宇江城から沖縄マツダにそれぞれ売却されたものであり、その代金も沖縄マツダから宇江城へ、宇江城から原告へそれぞれ支払われたものというべきである。

(一) 本件売買契約の関係者の認識について

沖縄マツダの宮城は、当法廷においても、「契約者は宇江城さんです。」と証言するなど、契約当事者が宇江城であることを明確に認識していたのに対し、原告については、契約締結の日に同席していたかどうかさえ記憶にないほどであるから、到底、原告を契約当事者として認識したいたとは思われない。なお、宮城の証言には、これと一見矛盾する部分があるが、仮に、宮城が売主を原告と認識していたのであるならば、前記乙第五号証のような、売主を宇江城とする契約書を作成するはずがないから、右証言部分は、仲松らから売主が宇江城であると聞かされるまでは、所有名義人である原告が売主となるものと考えていたという程度に理解すべきである。

(二) 売買代金の決定

本件物件の売買代金二億〇六四〇万円は、沖縄マツダの宮城と仲松及び東江との間で仲松及び東江の言い値どおりに合意されたものである。また、手付金額や中間金額の決定についても、原告は全く関与していない。このように、売買代金、手付金及び中間金の金額について、原告は全く関与せず、宮城と仲松らが決定している。

また、原告と沖縄マツダ間では、代金、手付金、中間金の支払等について一切合意はない。売買契約で最も重要なこれら金銭の支払部分につき合意がないことは、両者間に売買契約が存在しないことを強く示唆するものである。

(三) 沖縄マツダとの本件売買代金の授受について

前記四2のとおり、売買代金二億〇六四〇万円の中から原告が取得した金一億六五〇〇万円を除く金四一四〇万円は、全て宇江城が取得したものである。

なお、被告が前記三2(一)(2)<2>において指摘する点の反論は、以下のとおりである。

(1) 第一回目の代金授受について

<1> 被告は、小切手は原告ではなく宇江城が保管すべきではないかと主張するが、原告は宇江城から土地代金を取得する必要があり、それを確実にするために自ら保管したものである。

また、被告は、小切手を現金化したことを税務当局の追跡調査を困難にするように工作したものであるとするが、宇江城が現金を欲しがっていたので現金化したものである。

<2> そもそも、宇江城が払い戻した金五〇〇〇万円から原告が受領した金四〇〇〇万円を差し引いた残金一〇〇〇万円も原告が取得したことを裏付ける証拠はない。

(2) 第二回目の代金授受について

<1> 被告は、沖縄銀行十字路支店の宇江城名義の口座の開設につき、これを取引の仮装のためであるとするが、この口座は原告が指示して宇江城に作らせたものでなく、宇江城が自ら開設したものである。

<2> また、金二〇〇〇万円のうち金六〇万円が払い戻しされているが、これは、宇江城が消費したものであって、原告が関知するものではない。

(3) 第四回目の代金授受について

<1> 被告は、原告が宇江城に渡した金一一四〇万円について証拠がないとする。たしかに、宇江城から原告宛の領収証は法廷に提出することができないが、右金員が原告の手元に止まっている形跡はない。

<2> また、被告は、この際に原告は宇江城と会っていないとするが、原告は、宇江城と最後に昭和六三年五月ころ会っており、昭和六二年五月二一日ころに宇江城は行方不明になっていない。宇江城は、最終金を受け取る必要があったのであるから、これを受け取らないで行方不明となるはずがない。

(4) そもそも、沖縄マツダへ売却した際の所得は全て原告に帰属するとする被告の主張は、宇江城らが全く無償で原告の脱税工作に加担したとでもいうばかりの主張であるが、宇江城らがこのような脱税工作に加担した動機が不明であり、宇江城らの行動を合理的に説明できない。

(四) 宇江城の買受人としての適格性について

被告は、宇江城が当時五、六〇〇〇万円の借金を抱えていたことから、原告が宇江城にウイモーキーを依頼したことは不自然であるとするが、原告にとって、ウイモーキーであっても、実際に不動産が売れて資金を入手できることが重要であり、宇江城が借金を抱えていたかどうかは問題ではない。

(五) 譲渡価格について

(1) 被告は、原告が沖縄マツダに譲渡された価額よりも低い価額で宇江城に売却する理由はないとするが、原告は、宇江城と沖縄マツダとが売買契約をするまでその代金を知らなかった。

(2) また、そもそも、被告は、宇江城が沖縄マツダに売却した金二億〇六四〇万円を本件物件の相場であるかのような主張をしているが、原告は、金一億七〇〇〇万円程度での売却を希望し、それでもなかなか買い手がつかなかったのであるから、これは何の根拠もないものである。

(六) 甲契約書の形式について

(1) 甲契約書は、乙契約書と異ならなければならない部分は、空白欄を設けており、甲と乙とで契約当事者が異なることを前提とした作成になっている。

(2) 甲契約書に印紙の貼付がないことは認めるが、印紙の有無は契約書の真偽を左右するものではない。また、複写部分があったとしても、複写部分があるからといって契約書を虚偽とする根拠は全くない。

(3) 特約条項どおりの履行がないことについては、まず、昭和六一年一〇月一四日に金四〇〇〇万円の手付の授受がない点は、甲契約書の作成日は昭和六一年一〇月一四日であるが、実際に作成されたのは同月二一日であることからすれば、別段不自然ではなく、また、原告から宇江城に移転登記や引渡等が行われていない点は、甲契約書が市販の定型の売買契約書を用いて作成されているためであり、これらを省略することは当事者間で合意されている。

(4) 乙契約書において本件物件を占有していない宇江城が建物の移転について特約している点は、宇江城が原告に期限内に工場等を移転させることを沖縄マツダに約束したものであって、宇江城自身が本件物件を占有していることを前提に合意されたものではない。このように、他人の作為を契約内容とする売買契約は一般的に行われている。

4  なお、被告は、金六二五万二〇〇〇円を譲渡費用として認める旨主張しているが、これは、真実とかけ離れた極めて技巧的な主張であり、到底納得のいくものではない。

5  以上によれば、本件処分は被告の誤った事実認定に基づく誤った処分であるから、取り消されるべきである。

第三証拠

本件訴訟記録中の書証目録及び証人等目録の記載を引用する。

理由

一  請求原因1ないし4の各事実は、当事者間に争いがない。

二  抗弁について

1  本件物件につき、被告は、原告が沖縄マツダに直接金二億〇六四〇万円で売却したものであるとし、他方、原告は、原告が宇江城に金一億六五〇〇万円で売却した後、宇江城が沖縄マツダに金二億〇六四〇万円で転売したものであるとする。

2  そこで検討するに、本件においては、以下の諸事情が認められる。

(一)  成立に争いのない乙第七ないし第九号証によれば、本件物件の所有権移転登記は、いずれも、原告から、直接、沖縄マツダに対してなされていることが認められる。

(二)  成立に争いのない甲第五号証、乙第一〇、第一一号証、証人宮城靖の証言によれば、沖縄マツダの総務部長であった宮城は、昭和六一年一〇月九日ころ、沖縄マツダの取引先であった東江らから、本件物件が売りに出されていることを聞き、不動産登記簿謄本で本件物件の所有者が原告であることを確認の上、同月一三日ころ、本件物件を見に行って原告と会い、売却の意思を確認しているのに対し、宇江城とは、同月二一日に本件物件の売買契約書を締結するまで、一度も会っておらず、その売却の意思を確認してもいないこと、また、同日の売買契約締結の際、仲介人である東江は、当初、原告が来ていなかったことから、登記名義人である原告が立ち会わないと代金は支払えないとして、宇江城に原告を呼びに行かせたことが認められる。また、宮城も「登記名義が原告で、契約、支払に全て原告が立ち会っていることから、私としては、原告から買ったような認識しかない。契約書を宇江城と交わしたのは、原告と仲介人からそのように言われて、そのようにしないと買えないかもしれないと思ったからである。」旨証言している。以上のことからすれば、沖縄マツダとしては本件物件の売主は原告であると認識していたが、本件物件の取得を確実にするために、原告らの指示に従って、これとは売主の点で齟齬する内容の乙契約書を作成したものであることが窺われる。

(三)  仮に、原告主張のたおおりに、原告は宇江城に対して金一億六五〇〇万円で本件物件を売却したとすれば、沖縄マツダはこれを金二億〇六四〇万円で買い受けているのであるから、宇江城は、この取引によって金四一四〇万円も利益を取得したことになるが、原告と宇江城とは、中学校まで先輩、後輩の関係であるというものの、その他に両者の関係が親密なものであることを認める証拠はなく、経済的な利害による結びつきにすぎないというべき関係であることを前提とするならば、これは、不動産取引の常識からみて不自然というべき高額の利益といわざるを得ない。

(四)  前掲甲第五号証、証人宮城靖の証言、原告本人尋問の結果(第一、二回)によれば、昭和六一年一〇月二一日の沖縄マツダとの間の本件物件の売買契約並びに沖縄マツダによる同年一一月一〇日の金一億円、昭和六二年四月二四日の金二〇〇〇万円及び同年五月二一日の金三六四〇万円の支払に際して、原告はその全てに同席し(しかも、右金二〇〇〇万円及び金三六四〇万円の支払は、いずれも原告の店舗で行われている。)また、原告が沖縄マツダから右代金を受け取っていることが認められるが、原告主張のように、原告から宇江城、宇江城から沖縄マツダに本件物件が各売却されたのであれば、沖縄マツダと宇江城との間の売買契約の締結や沖縄マツダから宇江城に対する売買代金の支払の場にすべて原告が同席したり、いわんや、沖縄マツダからの売買代金を原告が受領したりすることは不自然である。

また、原告本人尋問の結果(第一回)により真正に成立したものと認められる甲第六ないし第九号証によると、甲第八号証の金二〇〇〇万円の領収書の金額欄は明らかに宇江城の筆跡とは異なること、甲第九号証の金五六四〇万円の領収書の作成日付である昭和六二年五月二一日沖縄マツダは宇江城に対して金三六四〇万円しか支払っていないのに、額面金五六四〇万円の領収証が発行されていることなどが認められ、これらによると、原告は、予め、昭和六一年一〇月二一日の合意に沿った中間金等の支払日及び金額等が記入された領収証及びそれらが白地の領収証を宇江城に作成させておいてこれを所持し、必要に応じて金額欄などを補充するなどした上で発行していたことが窺われ(原告は、原告本人尋問において、甲第八号証を沖縄マツダに発行した際には宇江城も同席していたとするが、とするならば、なぜ、宇江城が金額欄も記入しなかったのか疑問であり、これは信用できない。)、これらのことからも、沖縄マツダとの間の取引においては、原告が主体的に行動していたことが認められる。

(五)  前掲乙第四、第五号証によれば、原告と宇江城との間の甲契約書と宇江城と沖縄マツダとの間の乙契約書は、その特約条項の記載は複写されたものであることが認められることに加え、証人比嘉徳清の証言によれば、比嘉はウイモーキーに何回もタッチしたことがあるが、ウイモーキーの場合、売買契約書は、売主から買主への一通だけを作成するのが通常であり、売主からウイモーキーをする者、ウイモーキーをする者から買主への二通を作成することはないことが認められるが、本件においては、原告から宇江城、宇江城から沖縄マツダの二通が作成されており、通常のウイモーキーの場合と符号しないこと、また、原告から宇江城に対する売買契約書(乙第四号証)は、昭和六一年一〇月二一日に作成されたにもかかわらず、作成日付を同月一四日としたり、実際には同日には原告は手付金を受領していないにもかかわらず第三条で手付金として金四〇〇〇万円を受領したとの記載があることなどからすると、右契約書は、仮装取引の証拠とするために作成された疑いがある。

(六)  前掲甲第五号証、成立に争いのない乙第一二号証、証人新城進の証言によれば、本件物件売買の仲介人である新城は、宇江城との間で、仲介手数料につき、宇江城が原告から売買価額の三パーセント相当額を受け取るので、これを仲介人らで分配すると約束していたことが認められる。このように、宇江城は、原告が主張するウイモーキーと齟齬する内容を新城との間で約束している。

(七)  前掲甲第一一号証、原告本人尋問の結果(第一回)及び弁論の全趣旨によると、宇江城は、現在、所在不明であり、また、宇江城の昭和六一年分の所得税の申告書には、本件物件を原告から購入し、沖縄マツダに譲渡した旨の記載はなかったことが認められる。

3  以上の諸事情を総合考慮すれば、結局、本件物件は、実体上、原告が沖縄マツダに直接売却したものであって、その代金二億〇六四〇万円は原告が取得したものと認めるのが相当である。

なお、右認定に反対する甲第一一号証(原告の報告書)及び原告本人尋問の結果は、原告と宇江城との間の本件物件の売買代金を実際は金一億六五〇〇万円で金一億四五〇〇万円としたことにつき、当初は、宇江城が節税(所得隠し)したいと言ったことを理由としていたが、節税を希望したのは原告であると訂正したり、中間金につき、当初は、「意見を言った。」としていたが、「宇江城の売値にあまり関心はなかった。」と供述していることとの齟齬を被告訴訟代理人から指摘されると、「自分は言っていない、司法書士が言ったことである。」としたり、領収書の発行先を宇江城であるとしたり沖縄マツダであるとしたり、あるいは、沖縄マツダからの売買代金の支払いに際し、宇江城が同席していたとしたり遅れてきたとしたりするなど、種々の点で変遷があり、また、原告と宇江城との間の売買契約書(乙第四号証)には、「中間金八〇〇〇万円」との記載があるにもかかわらず、沖縄マツダから中間金一億円の支払を受けるに際し、「ウイモーキーする人は、所有者に全額支払ってから最後に上乗せ分を取るべきだと思った。」(甲第一一号証)とするなど、客観的な証拠と齟齬していることなどからすれば、信用することができず、採用しない。

4  また、原告は、原告が受領した金一億六五〇〇万円と沖縄マツダが支払った金二億〇六四〇万円の差額金四一四〇万円を原告が取得したことを証する証拠がないと主張するが、前記のように、本件は、原告と沖縄マツダとの間の売買であって、その代金を沖縄マツダが完済したことが認められる以上、原告は右金四一四〇万円についても全額受領したと推認することができるのであって原告の主張は理由がない。

なお、原告は、沖縄マツダからの代金の多くは宇江城名義の口座に入金されている旨主張するが、本件のように、原告が沖縄マツダと直接売買契約を締結し、その代金の一部について宇江城と共謀して所得税を逋脱している旨主張されている事案においては、いったん宇江城名義の口座に入金されている事実はさして重要なものとはいえない。

むしろ、成立に争いのない乙第一三号証によれば、いったん宇江城名義の口座に入金された金員は、その直後に引き出されていること、しかも、現金で引き出され、その後の行方が不明であるものも多く、それが多額であることが認められるが、そのこと自体、原告が所得税を免れるために工作したのではないかと強く疑わせるものである。

三  本件物件につき、これは、原告が沖縄マツダに直接売却したものであり、その代金二億〇六四〇万円は原告が取得したものと認定した場合の原告の昭和六一年分の譲渡所得の金額につき被告がしゅちょうする算定方法及び額については、原告は明らかに争わないので、これを自白したものとみなす(なお、原告は、被告が金六二五万二〇〇〇円を譲渡費用として認めた点については、真実とかけ離れた極めて技巧的な主張であるとして争っているが、原告と沖縄マツダとの間の本件物件の売買にあたっては、前記のように、複数の者が関与していることが認められることからすれば、法定媒介手数料額を譲渡費用額として認定することは相当であって、原告の主張は理由がない。)

そして、それによると、本件更正処分による納付すべき税額は、右によって算定された納付すべき税額を下回っていることが認められるから、本件更正処分は適法である。

四  つぎに、重加算税賦課決定処分について判断するに、前記のように、原告は本件物件を沖縄マツダに代金二億〇六四〇万円で売却したにもかかわらず、その一部に対する課税処分を免れようと、宇江城といういわゆる中間取得者を介在させ、また、甲第四及び第五号証のような仮装の売買契約書を作成するなどの手段を用いて、本件物件の売買について、宇江城との取引を仮装し、その所得の一部を隠蔽したものであることが認められる。

これは、国税通則法六八条一項の重加算税の課税要件に該当するといえるから、本件重加算税賦課決定処分も適法である。

五  以上の次第であるから、原告の本訴請求はいずれも理由がないからこれを棄却することとし、訴訟費用の負担について、行政事件訴訟法七条、民事訴訟法八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 稲葉耶季 裁判官 近藤昌昭 裁判官 平塚浩司)

別紙一

<省略>

別紙二

物件目録

一 所在   沖縄市字知花弁当原

地番   七四一番の一

地目   宅地

地積   一四六三平方メートル

二 所在   沖縄市字知花弁当原

地番   七四二番

地目   山林

地積   二四二平方メートル

三 所在   沖縄市字知花七四一番地の一

家屋番号 七四一番一の一

種類   居宅兼店舗

構造   鉄筋コンクリートブロック造陸屋根二階建

床面積  一階 一九四・三八平方メートル

二階   九五・二〇平方メートル

別表1

譲渡資産の用途別面積及び利用割合表

<省略>

別表2

譲渡資産の譲渡価額

<省略>

別表3

譲渡資産の取得価額

<省略>

別表4

譲渡資産の費用額

<省略>

別表5

損益通算前の譲渡所得金額の比較表

<省略>

別表6

納付すべき税額の比較表

<省略>

別表7

損益通算前の譲渡所得金額の比較表(費用額算定後)

<省略>

別表8

納付すべき税額の比較表(費用額算定後)

<省略>

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